日産自動車の英国法人は2026年9月16日、新型「キックス」のe-POWERモデルを欧州向けに、英国サンダーランド工場で生産すると発表しました(本稿執筆時点=2026年9月18日の情報。一次情報は日産英国ニュースルームの公式リリースで、発表から2日程度が経過しています)。投資額は1.7億ポンド(円換算で354億円程度)で、既存のキャシュカイ・ジューク・リーフに続く4車種目の生産ラインになります。日本国内では2026年9月10日に追浜工場からキックスの生産を日産自動車九州へ移管する再編が発表されたばかりで、この2つの発表はキックスという車種の位置づけが日産の中でグローバルに高まっていることを示しています。現行の国内向けキックスを中古で検討している読者にとって、今回の発表が意味するところを整理します。
何が起きたか:欧州生産の狙いとZEV規制とのかけひき
日産は同リリースで、キックスをサンダーランド工場で生産すると発表しました。サンダーランド工場は1986年の稼働開始以来、ブルーバード・プリメーラ・マイクラ・アルメーラ・ノート・インフィニティQ30・ジューク・キャシュカイ・リーフと車種を重ねてきており、キックスは同拠点にとって累計10車種目、現行の生産ラインナップとしてはキャシュカイ・ジューク・リーフに次ぐ4車種目にあたります。欧州地域を統括するマッシミリアーノ・メッシーナ氏は発表資料で「これは欧州地域にとって素晴らしいニュースであり、新しいモデルを新しい市場に投入する上での機敏さとスピードを示すものです」とコメントしています。
もっとも、この投資には条件が付いています。英ガーディアン紙(2026年9月16日)の取材に対し、メッシーナ氏は「英国政府とは引き続き協議を続けます。この計画の大部分は、ZEV(ゼロエミッション車)義務規制の改定にかかっているからです」と述べています。英国のZEV規制は、メーカーごとに販売台数に占めるゼロエミッション車の比率を2030年に80%まで引き上げる内容ですが、政府はメーカー側からの働きかけを受けて、この目標を50%まで引き下げる案を含めた見直しを検討しており、10月末まで意見公募を行っています。キックスのe-POWERはガソリンエンジンで発電し、モーターのみで走行するハイブリッド方式で、規制上はゼロエミッション車に分類されません。目標が引き下げられるほど、サンダーランド工場でe-POWER車を生産する余地が広がる構図です。英国政府のジョナサン・レイノルズ・ビジネス貿易大臣は今回の投資について「英国のものづくりの実力と自動車産業の未来に対する大きな信任投票だ」とコメントしています。
数字で見る投資計画
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投資額 | 1.7億ポンド(円換算で354億円程度・1ポンド=208円換算) |
| 新モデル | キックス e-POWER(Bセグメントクロスオーバー) |
| 搭載技術 | 第3世代e-POWER(2025年発表、燃費・静粛性を改善) |
| サンダーランド工場の直接雇用 | 約6,000人(サプライチェーン全体では約3万人) |
| 稼働率 | メッシーナ氏によれば現状約50% |
| 累計生産台数 | 1986年以来1,200万台 |
| 累計投資額 | 50億ポンド(円換算で1兆400億円程度・1986年からの累計) |
※ 数値は日産英国ニュースルームの公式発表および英ガーディアン紙の報道による参考値です。ポンド建ての数値を円換算する場合は、記事執筆時点の目安レート(1ポンド=208円)を用いています。
サンダーランドで生産される欧州向けキックスは、日本国内で2026年6月18日にフルモデルチェンジして発売された2代目キックス(P16型)と、車としては同じ世代にあたります。国内の新型キックスはすでに第3世代e-POWERと、モデル初採用となる電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」を搭載済みで、今回の発表は日本で先行して投入した世代のキックスを欧州にも展開する動きと位置づけられます。ちなみに、同じ第3世代e-POWERは新型「エルグランド」(2026年7月16日発売)にも搭載されており、日産は国内でこの新しいハイブリッドシステムの採用を広げている最中です。
現行「キックス」の中古相場への影響
今回の発表は、あくまで欧州向けの生産拠点をサンダーランドに決めたという内容で、日本国内のキックスの仕様や販売計画を直接変更するものではありません。したがって、これだけを理由に中古相場が急に動く材料ではありませんが、押さえておきたい点が2つあります。
1つ目は、キックスという車種の社内での位置づけです。国内では2026年9月10日に、追浜工場で生産してきたキックスを日産自動車九州へ移管する再編が発表されたばかりです(前回記事で詳しく整理しています)。今回の欧州生産開始とあわせて見ると、すでに日本・メキシコ・ブラジルで生産され70カ国以上で販売されているキックスは、日産にとって世界販売を支えるグローバル戦略車としての比重をさらに強めています。生産拠点が世界的に増えること自体は、部材調達や生産技術の共有を通じて、国内向けモデルの供給安定にもプラスに働く可能性があります。
2つ目は、初代キックスの世代交代です。日本では2026年6月にフルモデルチェンジが完了しており、中古市場に出回っているキックスの大半は、2020年に登場した初代モデルです。当サイトの中古データによると、2026年9月時点でキックスは流通1,105台・平均194万円(価格帯20〜340万円)で、もっとも流通量が多いのは2021年式(334台)、フルモデルチェンジ後の2026年式はまだ26台にとどまります。新型への置き換えが進むにつれて、初代キックスの中古相場は世代交代の影響を受けやすい局面に入っているとみられ、売却を検討している場合は相場の推移を注視する価値がありそうです。※ 数値は当サイト独自の市場分析による参考値です。
読者はどうすべきか
- 中古のキックスを検討している方:今回の発表自体は欧州向け生産拠点の決定で、日本の販売計画を直接変えるものではありませんが、国内ではすでに2026年6月に2代目へフルモデルチェンジが完了しています。中古の主流である初代モデルを検討する際は、その点をふまえたうえで車種比較ツールで条件を見比べるとよさそうです。
- キックスの売却・買い替えを考えているオーナーの方:初代キックスはすでに世代交代後のモデルという位置づけになっています。リセール予測ツールで今後の売却タイミングの目安を確認しておくとよさそうです。
- 日産の生産体制の動きに関心がある方:国内の生産再編(追浜からの移管)と今回の欧州投入は、いずれもキックスという車種の重要度が社内で高まっていることを示す材料です。あわせて、英国のZEV規制見直しは10月末まで意見公募が続いており、今後の決定次第でサンダーランド工場の投資判断が変わる可能性もある点は留意しておきたいところです。
日産の国内生産体制再編についてはこちらの記事、現行キックスのアウトドア仕様「ロッククリーク」についてはこちらの記事でも整理しています。
まとめ
日産自動車は2026年9月16日、新型「キックス」のe-POWERモデルを英国サンダーランド工場で欧州向けに生産すると発表し、1.7億ポンド(円換算で354億円程度)を投資するとしています。この投資は英国のZEV規制見直しの結果次第という条件付きで、規制目標が緩和されるかどうかは10月末までの意見公募を経て決まる見通しです。国内では2026年9月10日に追浜工場からのキックス生産移管が発表されたばかりで、今回の欧州展開とあわせてキックスの社内での重要度が高まっていることがうかがえます。サンダーランドで生産されるキックスは、日本で2026年6月にフルモデルチェンジした2代目と同世代で、すでに国内向けは第3世代e-POWER・e-4ORCEを搭載済みです。中古市場の主流はいまも2020年登場の初代キックス(流通1,105台・平均194万円、2026年9月時点)で、新型への置き換えが進むにつれて相場が世代交代の影響を受けやすい局面に入っているとみられます。※ 台数・価格は当サイト独自の市場分析による参考値で、日々変動します。